ギイーン、ギイーーン。俺のＧＰＸ７５０は世界最速だぜ！！（そうか？）
Ｏ君はツーリングの帰り、とある高速道路をぶっ飛ばしていた。
と、後方から夕日をバックに急接近するバイクの黒いシルエットが！！

なに！巧妙な白バイにロックオンされたか？いや違う。
謎のバイクはパッシングしながらさらに急接近。
Ｏ君は、道を譲るか一気に振り切るかの選択を迫られた。

様子を見ていると接近してきたのは黒のニンジャだった。
ニンジャはさらに接近しつつパッシングを激しく繰り返す。
「おのれ怪しい黒ニンジャめ、同じカワサキのＧＰＸが放つ、正義の白刃を受けてみよ！！」
と、言ったかどうかは分からないが、すぐにぶち切れるＯ君の頭は一瞬で暴走した。
（Ｏ君のＧＰＸはパールホワイトなのだ）

カン、カン、ギュイーン。
普通の相手なら１速しか落とさない彼が、このときは大盤振る舞いで２速落として一気に加速を開始した。
しかし、黒ニンジャはさらに差を詰めてきた。パッシングはさらに激しくホーンまで鳴らしてきた。

「おのれー！ふざけおって！！」Ｏ君の頭はこれで完全に爆発した。
ワイヤーも切れよとばかりにグリップをひねる。
謎の黒ニンジャが並びかける．．．．直前にＧＰＸはどうにかニンジャを振り切った。

「ざまーみろ、俺様の不意を突こうなんて４５億年早いぜ！！」
振り切ったニンジャをＯ君が振り返るとヤツはタンクに伏せて徐々に追いついてきていた。
「やべ！」Ｏ君もタンクに伏せて負けじと加速開始。

こうして始まった突然のバトルは、お互い持てるテクニックのすべてを出して約３０ｋｍも続いたらしい。（こわー！！）
が、Ｏ君が車線を変更しようか一瞬迷ったすきに謎の黒ニンジャが前に出た。
「なに！」、Ｏ君の前に出た黒ニンジャは突然親指で背中を指し示すようなゼスチャーを始めた。
「俺の後ろを走れってか？」、「いや違う、背中に．．．なんだ？」

あらたな展開に戸惑っていたＯ君の頭に突然ひらめくものがあった。
「背中？．．荷物か？！！」
Ｓ．Ａを出た時はパンパンだったはずの背中のＤＡＹパックが何やら軽い。
「げ、中身はどこへ．．．」
事態に気づいてスローダウンし始めたＯ君の横に黒ニンジャがスッと並んだ。
ニンジャライダーの手にはＤＡＹパックの一番上に入れたはずのＯ君の赤いバンダナが握られていた．．．．

バトルの余韻もそこそこに２台は路肩に停車した。
スモークシールドを開けてニンジャライダーはひとこと「あんた、荷物が落ちたよ〜」

ニンジャライダーの彼（Ｓさん）はツーリング仲間とＳ．Ａで缶コーヒーを買っていたらしい。
と、その時Ｓ．Ａを出て行くＧＰＸが赤いバンダナを落としたのを彼は見かけた。
「どうも、バックが開いているようだ」、親切なＳさんはその事をＯ君に知らせようと、バンダナを拾って仲間とＧＰＸを追った。
ようやくＧＰＸに追いついたＳさんは早く教えてあげようと一気に追いつきながらパッシングをした。

が、しかし．．．事態はＳさんの予想外の方向に転がり始めた。

「おーい、そんなつもりじゃないんだ。待ってくれー」
一度は追うのを止めようとしたＳさんだったが次々に落とし物をしながら遁走するＧＰＸを放っておく訳には行かない。
親切なＳさんは落とし物を拾って行く事も考えたが「それでは永遠にＧＰＸの彼に渡す事が出来ない」と思い直し、ＧＰＸの前に出る事だけを考えて飛ばしに飛ばした。
「少しでも早く教えてあげたい」と思いながら．．．．

話を聞いて呆然としているＯ君にＳさんはそう語った。
しばらくすると振り切られたＳさんの仲間がやってきた。
「こんなとこまで走ったの？途中で高速降りたかと思った」、「でも、荷物が点々と落ちてたからまだ先だなーと思って．．．．」、「あ、拾ってくれば良かったね、ゴメン」
２５０ｃｃと４００ｃｃバイクのＳさんの仲間はくちぐちにそう言った。

「ぬるくなったけど、これでも飲んで元気だしてね」そういってＳさんはバンダナと飲まなかった缶コーヒーをＯ君に差し出した。
「それじゃー、お先に、気をつけてー」、ギュイーン。笑顔とともにＳさんたちは去っていった。
「あ・り・が・と・〜」、Ｏ君は小さくつぶやいて見送った。

あとには、落とした物と戻りの高速代との損得を必死で計算するＯ君だけが取り残された。

＜＜ツーリングと落とし物に関するお話はありませんか？＞＞   １０／１８追記
みなさんの、今までの落とし物遍歴、落とし物対策のノウハウ、ひどい目にあった、こんな落とし物を見たゾ、などなど。なんでもけっこうです。
貴方のとっておきのネタ、おはなし、お待ちしております。

ICA03706@nifty.com   ２輪、４輪 林道ツーリングガイド編集室


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