★激イタ、息も出来ず

これは今から８年ぐらい前のお話。

「うぅむ！！」、「はうぅ！！」
声にならない声を出しながら歯を食いしばり、ヒザを押さえて数十秒間。
誰も見ていない道路上を私は１人で転げまわっていた。
あまりの痛さに声も出ないとはこのことか．．．「ぐはぁ！！」涙も出てきた。

★３秒先の不幸は誰にも分からない

前日の越前ツーリングの余勢を駆って、ちょっと遅めの桜見物をするために、
ダム建設で有名な岐阜県は藤橋村の国道３０３の旧道を走っていたときのことだった。

低いギアーでトコトコ走りながら、カメラ片手にのんびりと揖斐川沿いの旧道を走る。
誰も来ない道で、きらめく新緑と少し遅咲きの桜を堪能。平日のツーリングは最高である。

そうしてキョロキョロと撮影ポントを探しながら、とあるコーナーを曲がろうとしたとき、
路面の砂の集まりに気づいたときには．．．．
すでにセローはコントーロルを失い、スローモーションのようにズデンと路面に転がっていた。

乗っていた私は、バイクからうつ伏せの状態で投げ出された。
瞬間的に受け身を取ろうとしたが、背中のバックに入っているカメラがとっさに気になって．．．
そのまま不覚にもひざを突いたままズルズルとアスファルトの上を滑ってから止まった。

揖斐川沿いの旧道 八重桜がみごとだった．．．

★すべての事象は表裏一体？

さっきまで本当に気分が良かったのに、トラブルが発生したとたん、
急に１人で居ることが心細くなってきた。

「ソロ・ツーリングの気楽さと、リスクは表裏一体の関係」そんな言葉が空しく脳裏に響く．．．
荒い息をしながらバイクにもたれかかり、必死で落ち着こうと努力する。
激痛はそのままだったが、どうやら骨に異常は無さそうだった。

どうせ誰も居ないのだからと、悪態をつきながら何とかバイクを起すと、
少し安心してそのままでじっとしていた。
「くそう！！くそう！！」痛みのせいで無性に腹が立ってくるが、どうしようもない。

これは完全に自爆、自分以外に文句は言えない。
オフロードバイク乗りが舗装路の砂で、しかも２０ｋｍ／ｈ程度の低速で転倒して負傷するとは．．．
ああ、なんとも情けない話だが「完全な脇見運転」だったからどうしようも無い。
何たる間抜け、ズキンズキンという痛みとともに、また一段と腹が立ってきた。
「むなしさと、怒りは表裏一体の関係」またそんな言葉が頭の中に響いてきた。
「クソー！ 痛てーぞ！！」また一人でわめくしかなかった。

★苦痛の走行

どうにかこうにか、バイクにまたがり走り出した。
大きく息を吸い込んだまま歯を食いしばり、息を吐くとすぐまた吸い込む。
そんな呼吸法でどうにか痛みをこらえながら、誰も来ない山奥の国道をトコトコ走る。

これは大垣市（３５ｋｍほど先）まで走るしかないかな．．．
と、覚悟を決めて走っていると途中のちょっと大きな町、揖斐川町の「総合病院」の看板が見えた。
「助かった〜」１０ｋｍも走らなくて済んだのと、病院が普通に開いている月曜日だったのが救いだった。
信号待ちをして、細かい右左折をするのがひどく面倒くさい。
かなり焦っていたのだろう、途中で案内看板を見失ったが、
カンと本能を頼りにどうやら病院を探し当てた。

★大病院にて

まだ４月だというのに病院の階段のコンクリートが反射で眩しい。
何とか探してたどり着いたが、安心したせいか激痛のたびに頭がグラグラする。

「ギャー、いてー！！」
ここで大声で叫んでぶっ倒れ、すぐに処置室に運び込んでもらいたい。
しかし、心配して付いてきてくれている友人もいないし、
周りの人々は、何事も無いように病院に出入りしている。

自分でバイクを運転して来ているのに急に大声を出すのもなんだか芝居臭い。
「控えめな性格」の私には到底そんな事は出来なかった。（笑）

「くぬぅ！！」
歯を食いしばりながらバイクのスタンドを立て、ヘルメットをロックに掛ける。
貴重品の入った重いタンクバックをぶら下げ、手すりにつかまりながら階段を上る。

ようやく入った病院は、このあたりでは一番大きな病院なのだろう、
ロビーは広く、たくさんの診療科の看板が出ている。どこへ行けば一番良いんだ！！

しかもやたらと混み合っている．．．もうすぐ昼休みだ、非常にマズイ！！
何とか人込みを掻き分け「総合受付」らしき高いカウンターへ、ヨロヨロと近づいていった。

受付：「どうされましたか？」ニコ

私：「バイクで転んで足を怪我しちゃったんですけど〜」努めて冷静を装う

受付：「それでは整形外科をご案内しますね」

私：「ちょっと待ってください、怪我は外科でしょ？」

受付：「いえ、整形ですが．．．」

当時、私は怪我＝外科、整形＝美容整形と完全に勘違いしていたのだった。
この問答は数回繰り返されたが結局、私はきちんと納得できないまま「整形外科」に
案内されることに同意した。

受付：「それでは御名前をお呼びするまで、そちらで掛けてお待ちください」ニコ

冷静を装ったのが裏目に出たか？
いや、ちょっとそりゃないだろ、 頼むわ〜ホントと思いつつも

私：「あ〜、チョット痛むんですぐ看てもらえますか」

気の弱い、私はあまり強く言えなかった

受付：「急患の方以外は、順番にお願いしてるんですけど」

アハハ〜、必死にここまで来たが、この答えには少し力が抜け、
がくんとヒザが砕けそうになった

とは言われたものの、自分で勝手に転んで怪我したのだからこの人に怒るわけにもいかない。
しかし、左足のからはズキズキという痛みが容赦無く伝わってくるし、
生暖かい、ヌルヌルした感覚もズボンの裏一帯に広がった感じだった。
グズグズして後回しにされては体が持たない。

私：「いや、すいません実は私、急患なんですよ」マジ顔

自分でも間抜けなことを言っているのは百も承知だったが、
他に良いせりふも思い浮かばなかった

受付：「？？？」

受付嬢は目も？？？になっている。そこでフッと気が付いた！！
そうか、この人には高いカウンターのせいで私の足が見えないんだ．．．

わたしは痛い足でビッコをひきながら数歩あとずさると
ベルトを少し手で引き上げて、ズボンのヒザに開いた穴と
ぱっくり開いた血だらけの傷口を良く見えるようにシンクロさせた、ほらね。

受付：「ハッ」

小さく息を呑み込む音とともに、少々目が見開かれた。
これが百戦錬磨の看護婦さんなら、こんな怪我ぐらいでは眉毛一本動かさないだろうが、
この受付嬢には充分驚いてもらえたらしい。

「少々お待ちください」と言い残すと、スリッパをパタパタ言わせながら、
受付嬢はどこかへ走り去ってしまった。
どうやら私を「急患」と判断してもらえたらしい。助かった．．．

これでどうにかなるのかな？
ハハハ．．．力が抜けて、近くのソファーに座り込んだ。

★処置室にて

「バイクで転んだの？」「どこで？」「なに乗ってるの？」
まだ４０台前半と思われる先生は、テキパキと看護婦さんに指示を飛ばしながらも
馴れた感じで質問してくる。
きっとこのあたりでは、バイクで転んで担ぎ込まれてくる人も多いのだろう。

レントゲンを撮った後、バケツ？の上にヒザを置いて水を掛けながらブラシでゴシゴシ。
遠くの方に、ヒザをこするブラシの感触が伝わってくる。
麻酔が効いているから良いようなものの、それが無ければ七転八倒、絶叫悶絶
しているに違いない。

砂の上で転んだのが悪かったのだろう、「残ってはいけない」と先生は容赦無く、えぐれた肉の周囲を洗う。
「気の弱い」私は、途中からあまり傷口を見ないことにした。
かなり長い時間を掛けて洗浄した後、傷口を切ってから縫合してもらったが、広範にえぐれた肉の上下を
引っ張って繋いだために、左ヒザが３０°以上曲がらなくなってしまった。
どうせ皮は伸びてくるから問題はなかったのだが、うーむ、今からどうやってバイクに乗ろう。

「どうやって帰るの？」と先生に聞かれたが、さすがに本当のことは言えない。
「知り合いにむかえに来てもらう」ということにして、お礼を言って部屋を後にした。

★毎日の生活

両足を伸ばしたままタンデムシートに座り、遠くのグリップを握って前かがみになる。
こんなイージーライダー・スタイルで、どうにか高速で名古屋まで移動した。
市内は極力停車しないよう、足を付かないように運転しながらアパートまでたどり着くと、
くたびれ果てて布団に転がり込んだ。

夜中に目が覚めておきあがると、あまりの激痛に悲鳴を上げた。
寝ている間に完全に麻酔が切れてしまったらしい。
３０°どころか１°もヒザを曲げられない、い、痛すぎる。
痛み止めの錠剤を水で流し込んで、再び布団をかぶった。

次の日、会社に事の次第を連絡する。
午後からは課長が見舞いに来てくれたが、
キャンプ資材を詰め込んだ「作戦用ラック」（笑）が２列もある部屋を見て、
完全にあきれられてしまった。

結局、完治するまで１ヶ月ほどの間、トイレへ行くにも難渋（笑）する日々が続いた。
通勤は何とかできたものの、会社では車も乗れず資料整理の毎日。
会社にも迷惑を掛け、親にも心配を掛け、ゴールデンウイークは全ての予定をキャンセルし
部屋でゴロゴロ。いやこれは自業自得か？

★安全運転

現在は、ほとんど後遺症も無いから良いようなものの、これが骨折なんかだったらと思うと、
今でもぞっとします。（まわりでも数名が骨折の憂き目にあっている）

今年も、バイクシーズン開幕中ですが現役ライダーの皆さん。くれぐれも安全運転で！！
会社に迷惑を掛けたり、親を心配させちゃあいけませんよ。（笑）

しかし、あの年は波瀾万丈の一年だったな〜

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ICA03706@nifty.com   ２輪、４輪 林道ツーリングガイド編集室


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